保守とリベラルが脳・ジェンダー多様性を考える上で保守的な立場からの一つの答え

札幌地方裁判所で違憲判決が下された

 令和3年3月17日、札幌地方裁判所は、「同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであって,その限度で憲法14条1項に違反する。」と違憲判決を下した。異性愛者からも「同性婚を実現出来るようにすべきでは?」との意見もあり、同性愛への理解は進んでいる。セクシャルマイノリティ当事者である私は、実現するのであれば悪用されないように注意して法整備すべきと考える。

【判決要旨全文】「同性婚できないのは憲法違反」札幌地裁が日本初の判断

 一方で科学も進んでいて、最近はEsr2bの遺伝子に変異が生じたメスメダカはオスからの求愛を受け入れずメスに求愛するようになる研究報告があった。つまり、メダカにおいて遺伝子と性的指向はリンクしているのだ。(同性愛は遺伝子に関連する疾患と言いたい訳では決してない。)いずれは、「人間はどうか?」について脳科学が答えを出すだろうし、人工的に変更できるかもしれない。そうなった際に、科学はどうあるべきか?当事者が保守寄りな立場から意見を述べたい。

東大、Esr2bの遺伝子に変異が生じたメスのメダカはオスからの求愛を受け入れず他のメスに求愛することを見出す

人権・自由はどこまでも保障されるものではない

 今回の判決を受けて、今後は議論がいろんなことに波及するだろう。「性的指向は本人の意思で変えられない」のだから、同性カップルの里親制度や、科学が進歩すれば同性カップルの遺伝子で子供を産む権利を自治体・国は承認・保証するべきか。実は、同性の両親からDNA(遺伝情報)を受け継いだマウスを誕生させることに、中国科学院などの研究チームが既に成功している。そのため、「人間においても技術的には可能」となる日はそう遠くないのかもしれない。一方、小児性愛や近親婚はダメなのだろうか?これら愛の違いはどのような説明となるのか。あるいは、多様性の大義名分の元、全てOKにしてしまって良いのだろうか?

同性カップルの「里親」ってどうなの?

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同性両親のDNAを受け継ぐマウスはどうやって生まれたか

 人権・自由はどこまで認められるべきなのだろうか。世界に目を向けると、多様性・寛容性の思想が強いフィンランドでは近年、合計特殊出生率が低迷している(フィランド統計局より2018年1.41、2019年1.35。日本は厚生労働省より2018年1.42、2019年1.36)。我々は、この意味を考えないといけない。文筆家の御田寺圭氏は「リベラルな社会は、その『ただしさ』ゆえに社会を維持できない。その一方で、リベラルではない人たちがリベラルな社会の中で勢いを増している」と指摘する。個の自由はなるべく保障されるべきだが、皆が社会で生活するためには規範が必要だ。ジェンダーロールに基づく保守的考えは軽視するべきではない。

リベラル社会が直面する「少子化」のジレンマ

Fertility

図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移

 一方で、同性愛者である自分を好きになれないと悩む当事者は少なくない。悩み方は人ぞれぞれだが、古典的ジェンダーロールに応えることができない葛藤を持つことは自然な感情ではないか。あくまで当事者の1人である私の思いだが、「ジェンダーロールにとらわれない事も一つの生き方だが、異性と惹かれあって子供が出来たらそれはそれは幸せだろう」という気持ちはずっとある。異性愛者にはややこしいかもしれないが、同性婚だけで全て悩みが解決ではないのだ。

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 「悩むのならば、異性愛者になることも出来ますがどうしますか?」と選択肢があれば、救われる人もいるだろう。私自身も変わりたいと考える。Alfred Charles Kinsey博士は世の中はあらゆる側面で連続体であり、性的指向は異性愛or同性愛の二択ではないと説明した。これに当てはめれば、私は中間にいる当事者だ。かつて私は、セクシャリティの悩みを取材していただき自身の性的指向に悩む当事者がいることを寄せられたコメントから再認識した。ネットでも、当事者自身の同性愛をやめたいとの声はいくつか見かける。かつて、海外のゲイ向けサイトが調査を行い、同性愛者・両性愛者の男性2500人回答者の内74%は性的指向を変更できる薬があっても飲まないと答えたそうだ。しかし、言い換えると4人に1人は性的指向を変更したいということだ。より正確なデータを得るには大規模な調査が必要だが、26%とは無視できる数値では決してない。

Sexual Behavior in the Human Male

セクシャリティ・脳の多様性とは全て個性なのか?

 活動家や支援団体は、今までいないことにされてきたセクシャルマイノリティを守るため可視化してきた。今はLGBTQIA…と認識が広がっている。私もその中の一員だ。だから、私のような声・人権にも注目して欲しいと民間支援団体にいくつか連絡してきたが、返事は0だった。変わりたいと思うならば、それも個性・多様性なはずで、なぜ受け入れられないのか。当事者が支援団体からも黙殺されれば、それこそ容易く精神を病まないだろうか。

 LGBT支援団体はセクシャリティは「個性」と主張する。WHOも同性愛は精神病ではないとしている。勿論、同性愛=精神病ではない。しかし、脳の多様性についてそれが「個性」か「生きづらさに繋がってる」かは本人が感じることだ。例えば、私は発達障害でもあるが、発達障害についても個性or生きづらいと思うかは本人が決めることだ。生きづらいと感じる人には、医療は発達障害薬を提供している。私は支援団体がセクシャリティ全てを個性と言い切ってしまうことが悲劇の始まりと考える。現に4人に1人は異性愛者になりたいのである。これは活動家の一個人の意見を押し付けているに過ぎない。社会の規範は必要であり、少数派とは我慢を強いられることもある。このような不自由を差別・人権侵害と感情的に主張することで、社会の中で分断が静かに進んでいく。

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「もしノンケになる薬が発明されたら、あなたは飲みますか?」SNS上での議論、あなたはどうする?

脳と性的指向の関係についての研究

 では、性的指向は絶対に変更出来ないのだろうか?実は、性的指向と脳の関連は昔から研究報告がある。人間については脳の前視床下部間質核と呼ばれる部位の大きさが異性愛者男性は同性愛者男性より大きいことが報告されている。他にも、ショウジョウバエについての研究は約30年前からあり、脳の性別を決める分子の仕組みが分かっている。マウスについては、雄マウスの涙液に分泌されるESP1と呼ばれるペプチドは、他の雄に対しては攻撃行動促進、雌に対しては性行動促進の作用をすることが知られている。最近はこの過程において、扁桃体と呼ばれる脳の領域がEPS1シグナルの伝わり方を変えるスイッチの役割をしていることが分かった。このように、基礎研究は一歩一歩進んでいる。誰かを好きになる脳メカニズムは複雑かもしれないが、性欲とは食欲・睡眠欲のようにシステマチックなものだと私は考える。

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 かつて、アメリカのCharles Roselli博士が羊を用いて脳内の何がセクシャリティを決定するかを研究した。彼は羊においての性的指向のメカニズムを理解する基礎研究と主張したが、「同性愛の羊を「治す」研究をしている」と誤って報道されたために大いに批判もされた。当時は今より理解が少なく、偏見が根強かったため、当事者からすればもっともな批判だったと思う。同性愛を治療で排除しようとする思想は非常に危険であり、両サイドに多くの禍根を残す。これは歴史が証明してきた。しかし、「性的指向は変えられないのだから権利を認めるべき」と主張がある一方で、性的指向に関わる研究はタブーにするべきなのか。社会としての規範は必要であり且つ、今後は様々な立場の人々が権利をすり合わせていく中で、片方の自由・権利のために科学の進展を阻止して良いのだろうか。

 勿論、セクシャルマイノリティである人生を楽しんでいる人も沢山いる。性的指向の変更が出来るようになっても、本人が望む場合のみに適用されるべきだ。性的指向や恋愛対象は人格のコアに近い部分であり、他人に勝手に変えられることは非常に恐怖であり、それこそ人権侵害だろう。

Of Gay Sheep, Modern Science and Bad Publicity

 少し話は変わるが、自閉スペクトラム症の新薬開発がカナダのトロントで進んでいるが、その使用について意見が割れている報道があった。成人による当事者団体Autistics for Autistics Ontarioの一員のAnne Borden氏は「自閉症の人を受け入れようとするのではなく、解決するべき問題を抱えた正常でない人とみなしている。」「本人の尊厳や周囲からどのように捉えられ認識されるかに悪影響を与える危険性がある。」とコメントした。それに対して、この研究を行なっている Anagnostou博士は「実際に助けを求めている当事者もたくさんいる。私たちの立場は、当事者が自らやその家族にとって、様々なことを踏まえて適切な決定を行えるように選択肢を開発する責任がある。」と話した。 

Autistic Self Advocacy in Ontario

New experimental drug for autism creating divisions

自閉症の人向けの新薬開発で起きた自閉症の人たちの意見対立

ジェンダーの多様性には多様な選択肢が必要ではないか

 私は、LGBTは昔から存在して、ジェンダーは多様である事自体に社会的にも意味があると考える。勿論、私はLGBTであることが悪いことだと考えていないし、LGBTを全否定・排除しようとする思想は間違いだ。しかし、ジェンダーロールによる規範は緩やかに、しかし確かに存在するべきものだ。また、セクシャルマイノリティ・発達障害でもある私はマイノリティは苦労することが多いと痛感するし、当事者も個々で望むことは微妙に異なる。

 そのような中、同性婚だけでなく性的指向の変更の自由といった複数の選択肢がある事は、本人にとってセーフティネットとも言えるかもしれない。(ただし、本人に選択権を持たせること・手法に科学的根拠と安全性があることが大前提だ。)このような道を模索することは、当事者にとっても、社会全体で考えても良いのではないだろうか?活動家・支援団体には当事者の声を真摯に受け止めるべきだ。

 この分野の研究はまだ時間がかかるだろうし議論すべきことは沢山ある。しかし、この分野の研究を一面的・感情的に批判してアンタッチャブルなものにしてはいけないだろう。

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